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2025.07.18 更新日:2025.07.23
この記事の監修者:今 啓亮

この記事の監修者:今 啓亮

ダイバーシティ採用とは?メリット、課題、実施ポイントを解説

ダイバーシティ推進に取り組む企業が段階的に増えるなかで、人材の多様性を強みとする組織のあり方についての関心が高まってきました。 この記事では、企業のダイバーシティ推進の出発点となる「ダイバーシティ採用」について解説します。ダイバーシティ採用に取り組む目的、ダイバーシティ採用のメリットと課題、実践におけるポイントなどについて見ていきます。

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目次

ダイバーシティとは

ダイバーシティとは

ダイバーシティは、英語の「diversity」を和訳した言葉で、「多様性」を意味します。

この「多様性」とは、私たちの社会に存在する様々な違いが混じり合っている状態を指します。例えば、同じ日本人であっても、生まれ育った場所や環境が違えば、価値観や話し方にも細かな違いが生まれます。また、性別、年齢、そして見た目の違いも多様性の一部です。

さらに視野を広げ世界を見渡せば、人種や宗教など、より多様な違いがあることがわかります。これら、あらゆる違いが共に存在している状態こそが、まさにダイバーシティの本質と言えるでしょう。

ダイバーシティ採用とは

ダイバーシティ採用とは

ダイバーシティ採用とは、その名の通り、様々な背景や特性を持つ人材を積極的に受け入れる人事戦略を指します。

企業規模が大きくなると、従業員の年齢、価値観、出身地などの多様性は自然と広がる傾向にあります。しかし、ダイバーシティ採用は、さらに一歩進んで、意図的に幅広い人材の獲得を目指す手法です。

具体的には、性別、国籍、人種、宗教、障害の有無といった多様な属性に対し、できる限り視野を広く持って採用を試みます。そして、こうした多様な人材が活躍できるよう、制度設計や職場環境の整備も含まれる点が、この採用手法の重要なポイントです。

ダイバーシティ採用が広がる背景と目的

ダイバーシティ採用が広がる背景と目的

ダイバーシティ採用を導入する企業が日本で増えているのには、明確な理由がいくつか存在します。ここでは、その背景を確認しながら、同時にダイバーシティ採用の目的にも触れて解説していきます。

企業のグローバル化とダイバーシティ採用の必要性

情報化社会の進展や移動手段の進化により、日本と世界との距離確実に縮まっています。その中で、大手企業だけでなく中小企業も世界市場の獲得を目指し、海外進出を積極的に行う傾向が強まっています。同時に、海外企業も日本市場への進出を加速させています。

このような企業のグローバル化が進む現代において、競争を勝ち抜くためには、社内により一層多様な人材が必要です。なぜなら、似たような特徴を持つ従業員ばかりでは、複雑な世界情勢の一側面しか把握できず、世界での事業展開において言語や文化の違いが大きな壁となりかねないからです。

世界での事業展開を見据えたり、積極的に海外進出に動いたりする企業の増加こそが、ダイバーシティ採用が広がりを見せている大きな背景の一つと言えるでしょう。

情報化社会におけるダイバーシティ採用の重要性

インターネットの普及、特にSNSの登場は、人々の間でやり取りされる情報の量とスピードを劇的に加速させました。この変化は人々の価値観にも大きな影響を与え、企業のあり方や理念にも及び始めています。

現代において、ダイバーシティ採用を積極的に取り入れていない企業は、社会の変化に対応できていないと見なされ、「非常に古い体質が残る企業」というネガティブな情報が瞬く間に広まってしまうリスクがあります。一度マイナスイメージを持たれると、企業価値は長期にわたり損なわれたままになるでしょう。

企業が情報化の波に取り残されないための重要な施策の一つが、このダイバーシティ採用なのです。社会の変化を重視する企業ほど、積極的にダイバーシティ採用を取り入れています。

消費者ニーズの変化と多様な人材の必要性

グローバル化と情報技術の発展は、社会の価値観、特に消費者のニーズに大きな変化をもたらしています。「モノ消費」から「コト消費」への移行や、個人の価値観を重視した商品選択の増加、流行の目まぐるしい変化などがその例です。

もし企業の人材構成が偏っていれば、生み出される製品やサービスも画一的になりがちです。消費者の多様なニーズに継続的に応え、企業として成長し続けるためには、ダイバーシティ採用による多様な人材の確保がポイントとなります。

このような社会の変化と多様な人材の重要性に対する理解が広まるにつれて、ダイバーシティ採用を導入する企業も増加しています。

少子高齢化と労働人口減少への対応

日本では少子高齢化が進み、労働人口の減少が深刻化しています。これにより、画一的な採用を行う企業では、すでに人材確保が難しくなっているのが現状です。そのため、従業員を確保する目的で、ダイバーシティ採用を導入する企業が増えています。

たとえ現状で十分な人材が確保できていても、このまま少子高齢化と労働人口減少が進めば、将来的に人手不足に陥る可能性は否めません。こうした危機感から、多くの企業がダイバーシティ採用を早期に取り入れています。

これは、人手不足が顕著になってから慌てて多様化を進めても、組織や環境の対応が難しいことを理解しているためです。むしろ、早い段階からダイバーシティを取り入れ、多様性を受け入れる企業文化を醸成しておくことが重要な目的とされています。

労働者の意識変化と働き方の多様化

社会の価値観の変化は、労働者の意識にも影響を与え、働き方の多様化を促しています。副業やリモートワークを希望する人、フレックスタイム制のある企業への就職・転職を望む人が増加しているのは、より自由な働き方を求める労働者が増えていることの表れです。

これまでの画一的な労働環境や人事制度ではなく、社会の変化に対応した新たな制度を積極的に取り入れる企業で働きたいと考える労働者は少なくありません。

こうした労働者の意識変化に対応する目的で、ダイバーシティ採用を取り入れる企業もあります。多くの場合、ダイバーシティ採用の導入時には、既存の環境や制度の見直しが不可欠です。労働者が求める環境や制度を同時に整備できれば、企業はより多くのメリットを享受できるでしょう。

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ダイバーシティ採用の種類

ダイバーシティ採用の種類

ダイバーシティ採用には、いくつかの種類が存在します。それぞれの種類は異なる特徴を持ち、それに合わせた取り組みが必要となるため、注意が必要です。効果的な制度や環境を整備するためには、これらの種類を深く理解しておきましょう。

デモグラフィー型

デモグラフィー型ダイバーシティは、いわゆる「表層的ダイバーシティ」の受容を意味します。表層的ダイバーシティとは、性別、人種、国籍など、外見からある程度判断できる特徴を指します。

このタイプでは、性別によって採用基準を変えずに雇用機会の均等を図ったり、年功序列を廃止して成果を重視した評価制度を構築したりする取り組みが挙げられます。外国人やシニア層の積極的な採用も、デモグラフィー型ダイバーシティ採用の一例です。

デモグラフィー型は、企業にとって比較的取り組みやすい点が特徴です。しかし一方で、年齢や性別の違いから価値観の相違が生じ、それが業務に悪影響を及ぼす可能性もゼロではありません。また、表層的な多様性そのものが目的となってしまうと、組織の真の活性化にはつながらない可能性もあります。そのため、外見だけでなく、個人の能力や実績にも着目し、バランスの取れた採用を心がけることが重要です。

タスク型

タスク型ダイバーシティとは、「深層的ダイバーシティ」を受け入れることを意味します。深層的ダイバーシティとは、能力、経験、性格、宗教など、外見からは判断しにくい個人の特性を指します。

このタイプは、一見して把握が難しい特徴を重視するため、デモグラフィー型に比べて採用の難易度が高くなります。しかし、個々の能力や経験を適切に見極めて採用できれば、企業にもたらすメリットは非常に大きいと言えるでしょう。組織の活性化や企業価値の向上に大きく貢献する可能性が高い点が、タスク型ダイバーシティの大きな特徴です。

タスク型ダイバーシティを進める上では、デモグラフィー型と同様に、成果を重視した評価制度の導入と構築が大事です。なぜなら、能力や経験を重視して採用したにもかかわらず、それらが適切に評価されない制度では、従業員のモチベーション低下や離職につながりかねないからです。

また、宗教や文化といった深層的ダイバーシティに対する理解は、人によって異なります。そのため、従業員への教育や周知を徹底し、社内で偏見が生まれないよう配慮することを心がけましょう。

オピニオン型

デモグラフィー型タスク型が「人の多様性」に着目した採用手法である一方、オピニオン型は「組織そのものの多様性」に焦点を当てた取り組みを指します。

どれほど多様な人材を採用しても、従業員が自由に意見を述べたり、能力を存分に発揮したりできる環境や制度が整っていなければ、その意味は半減してしまいます。特に、誰もが発信できるコミュニケーションの場を設け、特定の意見が排除されることのない状態を築くことが、オピニオン型の大きな特徴であり目的です。

オピニオン型はダイバーシティ採用の種類の一つではありますが、デモグラフィー型やタスク型と並行して進めるべきものと捉えておくと良いでしょう。これを採用手法の一つとして理解し導入することで、ダイバーシティ採用全体の効果をより高めることが期待できます。

また、オピニオン型の取り組みは、既存の従業員の価値観や行動変容を促す上でも非常に重要です。そのため、ダイバーシティ採用を導入する際には、積極的にこのオピニオン型の視点を取り入れる必要があります。

ダイバーシティ採用に取り組む3つの目的

ダイバーシティ採用に取り組む3つの目的

企業がダイバーシティ採用を進める主な目的は以下の3点です。

1.優秀な人材の獲得と人手不足の解消

ダイバーシティ採用は、アプローチする候補者層を広げることで、これまでの採用活動では接点のなかった優秀な人材との出会いを増やします。

年齢や国籍、勤務時間などに縛られず、人物や能力を重視した採用を行うことで、子育てや介護で働き方を変えた優秀な人材、豊富な経験を持つシニア層、高い能力を持つ多国籍人材などとの接点が増えます。労働人口が減り続ける日本において、ダイバーシティ採用は構造的な人手不足を解消する有効な手段となり得ます。

2.変化に強い企業体質の確立

現代は事業環境の変化が激しく、未来予測が困難な時代です。想定外の問題も発生しやすく、あらゆる業界でこれまでの発想にとらわれない解決策が求められています。

不確実性の高い状況で最適な解決策を導き出すには、多種多様な強みを持つ人材の視点やアイデアを適切に活用することが大切です。ダイバーシティ採用は、時代の変化に柔軟に適応できる強靭な企業体質の確立を目指すことでもあります。

3.事業のグローバル化への対応

企業のグローバル化は、従来の自社製品・サービスを海外市場に展開するアウトバウンド型だけでなく、近年では海外からの訪日外国人旅行者を対象とするインバウンド型事業への関心も高まっています。

さらに、海外の新技術導入や、高度な技術・知識を持つ外国籍人材の採用を通じてグローバル市場で通用する価値を創出しようとする動きもあります。

このような企業のグローバル化において強みとなるのが、多様な言語でビジネスコミュニケーションができ、対象国の文化、宗教、価値観などを理解した人材です。

ダイバーシティ採用がもたらすメリット

ダイバーシティ採用がもたらすメリット

ダイバーシティ採用は、企業に多岐にわたるメリットをもたらし、特に業績の向上に貢献します。ここでは、その具体的なメリットについてご紹介します。

新しいアイデアやイノベーションの創出

ダイバーシティ採用は、優秀な人材の確保だけでなく、多様な人材が集まることで新しいアイデアやイノベーションの創出を促進します。

同じ価値観や経歴を持つ人々だけでは、新たな発想が生まれにくいものです。しかし、多様なバックグラウンドを持つ人材が集まることで、これまでとは異なる考え方や意見が自然と増加します。こうした多角的な視点や意見が重なり合うことで、予期せぬ画期的なアイデアが生まれやすくなるでしょう。

企業の固定観念が根本から変われば、イノベーションが常に生まれる環境を定着させることも可能です。そのためには、ダイバーシティ採用を通じて、常に新しい価値観や特性を持つ人材を確保し続けることが大切です。

生産性向上への貢献

ダイバーシティ採用は、生産性の向上に直結します。

多様な個性や強みを生かせる職場環境を構築することで、従業員一人ひとりが持つスキルを最大限に発揮できるようになり、結果として組織全体の生産性向上が期待できます。

また、多様な人材が在籍する企業は、個々の能力を活かしてビジネス環境の変化にも柔軟に対応しやすくなります。これにより、企業の持続的な経営を実現することにもつながるでしょう。

従業員のモチベーション向上と生産性アップ

企業の価値や評価が向上すると、既存の従業員はもちろん、新しく採用された多様な人材のモチベーションやエンゲージメントも高まります。自身の背景や特性を受け入れてくれる企業に対し、従業員は貢献したいという意欲をより強く持つようになるでしょう。

適切な制度や環境が整っていれば、このモチベーションはさらに高まり、結果として業務の効率化や生産性の向上へとつながります。これは、イノベーションによる業績アップだけでなく、効率化・生産性向上を通じて利益の増加も期待できるという重要なメリットです。

企業イメージと採用力の向上

ダイバーシティ採用を積極的に実施することは、企業の評判を大きく向上させます。これは、「変化する社会に適応しようとする意思」を示すものであり、企業が成長に意欲的であるというポジティブなイメージを与えやすいためです。

企業価値や評価の向上は、結果としてより多くの優秀な人材の獲得へとつながります。古い体質が残る企業よりも、多様性を受け入れている企業で働きたいと考える労働者は多く、むしろその傾向は強まっています。

ダイバーシティ採用がイノベーション創出につながるまでには一定の期間を要しますが、それよりも早く企業価値や評価の向上が期待できる点は大きなメリットです。さらに、多様なステークホルダーとの関係性構築にも良い影響を及ぼすでしょう。

ダイバーシティ採用の課題

ダイバーシティ採用の課題

ダイバーシティ採用には、いくつかの課題も存在します。人事・採用部門が特に注意すべき4点を以下に挙げます。

アンコンシャス・バイアス

ダイバーシティ採用を阻む大きな要因の一つに、多くの人が無意識のうちに抱いているアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)があります。

アンコンシャス・バイアスとは、先入観や固定観念によって物事の見方や捉え方が歪んだり偏ったりすることを指します。無意識ゆえに、採用後の人材の活躍を阻害する要因にもなり得るため、組織として適切にマネジメントし、従業員一人ひとりの気づきを促す取り組みが大切です。例えば、以下のような心の動きは、すべてアンコンシャス・バイアスとされます。

  • 男性から育児休暇の申請があると、「奥さんは?」と咄嗟に思ってしまう
  • 子育て中の女性には、転勤を伴う異動の打診はしない方がいいだろうと考えてしまう
  • 非正規雇用で働く人は、自分で望んで働き方を選択しているのだと思い込む
  • 外国籍の従業員は日本の企業文化に合うのか、つい心配になる
  • 障がいのある人には、簡単な仕事を任せればいいと考えてしまう
  • LGBTQ+であると聞くと、少し戸惑いを感じてしまう

特に面談や面接の場では、候補者とのコミュニケーションの齟齬につながりやすいため、意識的な注意が必要です。

ミスマッチの防止と見極め

ダイバーシティ採用における課題の一つは、採用判断の難しさです。既存の従業員とは異なる特徴を持つ人材が、必ずしも常に企業に貢献するとは限りません。年齢、性別、国籍、人種、宗教、学歴など、多様な背景を持つ人々の中にも、企業に合う人材とそうでない人材がいるのは事実です。

ミスマッチを防ぎ、企業の成長に貢献する人材を確保するためには、優秀な人材を適切に見極めることが不可欠ですが、これは決して容易な判断ではありません。多様な人材の確保と、企業にとって本当に必要な人材の獲得を両立させるには、この難しい採用判断の課題を乗り越える必要があります。

コミュニケーションの障壁

多様な人材を受け入れることは、従業員間に様々なギャップや壁を生じやすくする可能性があります。例えば、世代間のギャップ、文化の違い、人種や言語の壁などが挙げられます。

これらの障壁は、効果的なコミュニケーションを阻害する恐れがあります。適切にコミュニケーションが取れなければ、認識の食い違いからトラブルに発展したり、期待される効率化や生産性向上どころか、逆に業務効率や生産性を低下させてしまうリスクもあるため、注意が必要です。

資格制度設計と採用判断の難しさ

ダイバーシティ採用では、多様な属性や価値観を持つ人材を公正に評価し、処遇するための資格制度設計、そして自社への適性を見極める採用判断に難しさがあります。

この課題を克服するには、ダイバーシティ採用の導入時に、経営計画や採用計画と連携させ、具体的な課題や目標に合った人材を採用できる制度や基準を設けましょう。

また、求人広告には仕事の厳しさや向いていない人の特徴などを具体的に記載し、入社後に活躍できる人材を見極めることも効果的です。

早期離職のリスク

多様な人材を採用した場合、企業の働き方に合わなかったり、職場の文化になじめなかったりして、早期離職につながる可能性があります。特に外国人採用では、言葉や文化の違いが原因で問題が生じやすくなります。

人材の定着を図るためには、入社後のきめ細やかなフォローアップと、受け入れ体制の整備が非常に大事です。また、職場のコミュニケーションを促進するためのレクリエーションや定期的なミーティングなども効果的な対策となるでしょう。

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ダイバーシティ採用を成功に導くポイント

ダイバーシティ採用を成功に導くポイント

ダイバーシティ採用のメリットを最大限に引き出すためには、採用するだけでなく、様々な側面に目を向けた包括的な推進が必要です。

1.ダイバーシティへの理解を深める

経営層や人事担当者だけでなく、既存の従業員を含めた社内全体でダイバーシティへの理解を深める活動が不可欠です。

まずは、ダイバーシティ採用の制度や目的を社内で共有しましょう。人は急激な変化を嫌う傾向があるため、本格導入前に段階的に意識を変化させる取り組みが必要です。特に、無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)には注意を払い、具体的な事例を提示しながら、偏見を生み出さないためのコミュニケーションを促す教育が必要です。

2.採用基準の明確化

「採用判断が難しい」という課題を克服するには、採用基準を明確にしましょう。単に「既存とは異なる特徴を持つ」という理由での採用では、真のメリットは得られません。

部署や業務ごとに必要な能力や経験を具体的に洗い出し、言語化できるレベルまで明確にしましょう。もちろん、未知の人材もいるため想像の域を出ない部分もありますが、必要な要素の明確化は可能です。重要なのは、これらの要件を満たしていれば、性別、年齢、人種などを問わないというダイバーシティの概念に沿った採用基準を構築することです。これは、こだわるべき点とこだわる必要のない点を整理することでもあります。

3.適切な環境と評価制度の整備

多様な人材を受け入れる環境や、能力・成果に基づいた評価制度が整備されていなければ、ダイバーシティ採用は形骸化しかねません。単に多様な人材を受け入れただけでは企業に多くのメリットはもたらされず、新たに採用した人材の定着も難しいでしょう。

ダイバーシティ採用は、適切な環境整備および評価制度の構築と一体で進める必要があります。急激な改革は既存従業員の不満につながる可能性があるため、段階的な整備が重要です。

4.働き方の柔軟化

ダイバーシティ採用を推進するには、働き方の柔軟化がポイントです。

現代社会では共働き世帯が多く、子育て中の従業員に対しては、育児と仕事を両立しやすい環境づくりが求められています。また、親の介護をしている人や、障がいにより通院が必要な人などに対しても、仕事との両立を可能にする柔軟な働き方を提供する必要があります。

具体的には、以下のような制度の整備が有効です。

  • フルフレックス勤務
  • リモートワーク
  • 介護休暇
  • 育児休暇(男女問わず)
  • 時短勤務
  • トランスジェンダー向けトイレの設置
  • 礼拝室の設置

これらの取り組みを通じて、多様な背景を持つ従業員が働きやすい環境を整え、定着を促すことができます。

ダイバーシティ採用と制度改革に取り組む企業事例

ここからは、実際にダイバーシティ採用やそれに伴う制度改革を推進している企業の事例をご紹介します。

YKK株式会社

スライドファスナーで世界シェア45%を誇るYKKは、積極的に外国人採用を行っています。採用後は富山県黒部市の製造・開発拠点で働くため、面接時には都会のイメージを持つ外国人応募者に対し、工場周辺の環境を丁寧に説明しています。

また、黒部事業所内にはイスラム教徒の従業員が安心して食事ができるようハラル認証を取得した食堂を開設。これにより、効率的な技術人材の育成と定着を目指しています。

エン・ジャパン株式会社

「エン転職」などを展開するエン・ジャパンは、多岐にわたるダイバーシティ推進制度を導入しています。

  • 同性パートナーシップ制度: 2019年より、結婚記念日お祝い金や単身赴任手当などの社内制度を、LGBTの事実婚関係にある社員にも拡大適用しました。
  • ボーダレスな人材登用: 世界20ヶ国以上の多国籍人材が活躍する同社では、国籍や年齢に関わらず「仕事の成果」でフラットに評価する文化があります。
  • 家事代行割引制度: 子育て中の女性社員の発案で、お掃除や料理代行サービスを割引で利用できる制度を導入し、従業員のワークライフバランスを支援しています。

コクヨ株式会社

文房具やオフィス家具を扱うコクヨは、1940年から障がい者雇用に取り組む長い歴史を持ちます。近年では、障がい者雇用が目的化しないよう、個々の障がいの状態、特性、スキルに合わせて段階的に業務を拡大。リモートワークやフレックス勤務も導入し、生産性向上を図りました。その結果、新製品開発などのコア業務への貢献も増加しています。

障がいを持つ社員自身のモチベーションも向上し、より付加価値の高いアウトプット創出に積極的になりました。また、ダイバーシティ担当部署がグループ全体に積極的な情報発信を行い、グループ報での定期的な記事掲載やフィードバックを通じて、障がい者の活躍への理解促進と精神的なサポートを行っています。

株式会社商船三井

大手海運会社の商船三井は、女性活躍推進に優れた企業に贈られる「なでしこ銘柄」に4年連続で選定されています。

女性のライフステージに合わせた多様な制度を策定しており、具体的には、不妊治療への費用助成(海外駐在員のみ)や休暇制度、病児保育利用費の一部補助などがあります。さらに、海上勤務の女性社員の負担軽減のため、生理用品の会社支給といった試験的な取り組みも実施しています。

加藤精工株式会社

社員からのカミングアウトを機にLGBTQへの理解を深めた加藤精工は、2017年の「約13人に1人がLGBTQ当事者」という記事をきっかけに、全社員対象の専門講師による研修を実施。メディアを通じて会社としてLGBTQ理解を求めるメッセージを発信しました。

就業規則も大幅に改正し、同性パートナーを福利厚生上の「配偶者」として認定し、結婚祝い金や介護休暇(パートナーの親も含む)の対象としました。また、独自の「安心休暇」でホルモン治療を対象に含めたり、子どもの学校行事参加のための「学育時間」を新設するなど、個々の事情に応じた柔軟な制度を整備。これにより社員のエンゲージメントが向上しました。

こうした多様性を尊重した取り組みは、キャリアセンターや自治体、教育機関から注目を集め、新聞にも取り上げられ、企業の知名度が大きく向上。結果として、中途・新卒ともに安定した採用が可能となり、県内からの応募も増加しています。

株式会社エムエス製作所

エムエス製作所は、約20年前から外国人を積極的に雇用し、現在では社員の約1割を外国人が占める企業です。同社は、文化や宗教の違いを尊重し、お祈り部屋や足洗い場の設置といった設備面での配慮に加え、デジタルデバイスを活用した円滑なコミュニケーションを促進しています。

定期的な社内イベントや表彰制度を通じて異文化理解と尊重の風土を醸成した結果、日本人と外国人社員双方のエンゲージメントが向上しました。これにより優秀な外国人の雇用に成功しただけでなく、「外国人と働きたい」と考える日本人からの応募も増えるなど、グローバル企業としての認知度も高まっています。

さらに、技能検定を給与評価の基準とすることで、社員の技術向上意欲を刺激し、多能工化を推進。この取り組みが「現代の名工」を輩出するまでに至り、社内全体の技術力向上に大きく貢献しています。

まとめ

まとめ

多様な人材を受け入れるダイバーシティ採用は、優秀な人材の確保に加え、生産性向上イノベーション創出、そして企業イメージの向上といった多くのメリットをもたらします。

しかしその一方で、公正な資格制度設計や採用判断の難しさ、またハラスメントや早期離職のリスクといった課題も存在します。

ダイバーシティ採用を成功させるには、単に多様な人材を受け入れるだけでなく、公平な採用活動と評価を行うための仕組みづくりが欠かせません。さらに、入社後の人材の定着化を図るためのフォロー体制を整えることが極めて大事になるでしょう。

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この記事の監修者:今 啓亮
この記事の監修者:今 啓亮

まるごと人事として550社以上の企業の採用支援
書籍『「本当にほしい人材」が集まる中途採用の定石』好評発売中

2015年に東京でマルゴト株式会社(旧社名:株式会社ビーグローバル)を創業。
スタートアップから大手企業まで幅広く採用関連のプロジェクトに携わった後、2017年に月額制の採用代行”まるごと人事”の提供を開始。
2021年にバックオフィス代行”まるごと労務””まるごと経理”も開始。
「理想のサービスと理想の職場を同時実現する」を経営理念に掲げ、全員がフルリモートで働くユニークな組織運営を行う。
2022年に本社住所を東京から札幌に移転し、自身も関東から札幌に移住。

出演イメージ

2024年11月、ABEMAの報道番組「ABEMA Prime」に
採用のプロフェッショナルとして出演。
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