採用・労務・経理に関するお役立ち情報

昨今、企業の競争優位を確保するための手段として注目を集めている「戦略人事」。本記事では、戦略人事とは何か、必要とされている背景を踏まえて人事部門に求められることを解説します。

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目次
戦略人事とは

戦略人事とは、経営戦略の実現を目指して、経営資源の中の一つである「ヒト」という「人的資源」を最大限活用し、業績向上に貢献するために、経営戦略と連動した、人事戦略を実施することです。
戦略人事の例
戦略人事について、例を挙げて確認してみましょう。
例えば、『既存市場から新規市場へサービスを展開し、事業ドメインを拡大する戦略をとりたい』という企業があるとします。この場合、既存の従業員を教育して新規事業へシフトさせ、組織体制の見直しを行う必要があります。
そのため、『新しい事業へ挑戦する組織風土の醸成』や『報酬制度の見直し』などが求められます。
このように、『事業の実現に向けて人事施策を実施すること』が戦略人事です。
戦略人事と人事の違い
従来の人事は、給与や労務管理など、定型のオペレーション業務が中心で、どちらかというと就業規則に則った管理や前例を重視する傾向があります。戦略人事における施策に伴い、事業部門での異動や体制が決まり、その結果の発令を行ったり、転勤手続きを実施するのが従来の人事の役割でした。
一方で、戦略人事は事前に異動者リストを作成したり、人材補充のための採用計画を立てたり、教育体制を整備したりと、『攻めの人事』を実施します。このように、戦略人事は『ヒト』という人的資源の側面から、積極的に経営に参画し、企業の変革をリードしていきます。
戦略人事が注目される背景
戦略人事が注目される背景には、グローバル化やDXなどによる事業環境の急速な変化が挙げられます。事業環境の変化が緩やかだった時代の経営戦略は、経営者自身や経営戦略室が打ち出すのが一般的で、人事部門はあまり関与しない領域でした。
しかし、変化の激しい時代に市場優位性を確保するためには、変化に対応できるスキルや知識、経験を持つ人材の獲得が重要です。そのため、人材管理を中核とした優れた経営戦略が、今後ますます必要になると考えられています。
戦略人事が日本企業に定着した理由
戦略人事の語源は、経営学における『戦略的人的資源管理論(Strategic Human Resource Management)』であるといわれています。戦略的人的資源管理論は、1980年代から発展した経営学の研究分野の一つであり、さまざまな議論がなされてきました。
その後、1997年にデイビッド・ウルリッチ氏(以下、ウルリッチ氏)が、戦略的人的資源管理論のテーマの一つとして『Human Resource Champions』(邦訳版『MBAの人材戦略』)という研究を実施しました。
ウルリッチ氏は、この研究を通じて以下のように提唱しました。
『戦略パートナー』『変革エージェント』『管理のエキスパート』『従業員チャンピオン』という4つの役割を定義し、人事はこれらの役割を担うビジネスパートナーであるべきである。
この研究をきっかけに、『人事はもっと戦略的であるべきだ、ビジネスパートナーたるべきだ』という論調が日本企業に広まりました。
この論調を示す言葉として、またウルリッチ氏の研究が属していた『戦略的人的資源管理論』という研究分野名も影響し、『戦略人事』という言葉が生まれ、日本企業の間で定着したと考えられます。
2000年〜2010年頃には、ウルリッチ氏の4つの役割の影響を受けながら、HRBP(Human Resource Business Partner)を中心とした人事部のモデル(HRBPモデル)が外資系企業で定着しました。
当時、グローバル化を進めようとしていた日本企業がHRBPに着目し始めたことで、戦略人事という言葉はさらに定着し、現在も日本企業の間で一般的に使われています。
戦略人事と経営戦略

戦略人事と経営戦略の関係とは、どのようなものなのでしょうか。
経営戦略とは
経営戦略とは、企業が経営目的や経営目標を達成するために策定する、事業計画や施策全般を指します。また、経営資源である『ヒト』『モノ』『カネ』『情報』を、経営目的や経営目標の達成に向けて分配したり、施策実現のための体制を構築することも、経営戦略に含まれます。
戦略人事と経営戦略の関係
経営戦略を実行する上で必要な『戦略』『戦術』『戦力』『環境』のうち、『戦力』と『環境』を担うのが『人事戦略』です。いかに優れた戦略や戦術を立案しても、それを実行する戦力がなければ、戦略の実現は叶いません。
さらに、戦力が十分に力を発揮できる環境の整備も、人事の重要な役割です。
そのため、人事は積極的に経営を理解する必要があります。経営を理解するとは、企業の目指す方向性にベクトルを合わせ、起こりうる事態を予測し、備えることです。
このように、戦略人事は経営戦略を理解し、そのうち『ヒト』が担う領域に関する対策や施策を実行することが求められます。
戦略人事と経営戦略の連動プロセス
戦略人事と経営戦略を効果的に連動させるためには、段階的なアプローチが必要です。
まず、経営層が掲げる中長期的なビジョンと事業目標を人事部門が深く理解しなければなりません。売上目標や市場シェアの拡大、新規事業の立ち上げといった経営目標に対し、必要な人材像を具体的に定義していきます。
次に、現在の組織における人材の質と量を分析し、経営目標達成に向けたギャップを明確化しましょう。不足するスキルや経験、人員数を洗い出し、採用・育成・配置の優先順位を決定していきます。
さらに、短期・中期・長期の時間軸で人材施策のロードマップを策定します。新規採用が必要な領域、既存社員の育成で対応できる領域、組織再編で解決できる領域を整理し、実行計画に落とし込んでいきましょう。
最後に、施策の進捗状況と成果を定期的にモニタリングし、経営層へ報告します。市場環境の変化や事業戦略の修正に応じて、人材施策も柔軟に見直していく体制を構築しましょう。
経営戦略の変更が生じた際には、人事部門が迅速に対応し、必要な人材の再配置や新たな採用活動を開始できる機動力が求められます。
戦略人事が育ちにくい要因
戦略人事が育ちにくい原因として、以下の3点が挙げられます。
- 人事部に戦略を理解するビジネス感覚を持った人材が不足している
- 経営者が人事部をビジネスパートナーとして認識していない
- 人事部が労務部門として給与計算や社会保険業務に特化している
戦略も戦術も、『誰が』『どのように』実行するのかが明確でなければなりません。つまり、経営とは『ヒトを経営する』ことであり、経営戦略と戦略人事の関係は、事業を成功させるために不可欠なものです。

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人事戦略と戦略人事の違い

人事戦略と戦略人事は混同されやすい概念ですが、明確な違いが存在します。両者の違いを理解し、適切に連携させれば、組織全体のパフォーマンス向上につながるでしょう。
人事戦略の定義と目的
人事戦略とは、人事部門が担う採用・育成・評価・配置といった業務領域において、効率性や質を高めるための計画を指します。
具体的には、採用手法の見直しによる応募者数の増加、評価制度の改定による公平性の向上、研修プログラムの充実による社員のスキルアップなどが該当するでしょう。人事部門内の業務プロセスを最適化し、組織の基盤を強化する役割を果たします。
人事戦略の主な目的は、人事業務の品質向上とコスト削減です。採用活動における選考プロセスの効率化、給与計算業務のシステム化、労務管理の正確性向上といった取り組みを通じて、人事部門の生産性を高めていきます。
戦略人事と人事戦略の5つの相違点
戦略人事と人事戦略には、目的・視点・関与範囲・成果指標・時間軸という5つの明確な相違点が存在します。
両者の主な違いは、以下のとおりです。
| 項目 | 戦略人事 | 人事戦略 |
|---|---|---|
| 目的 | 経営目標の達成 | 人事業務の効率化 |
| 視点 | 経営層の視点 | 人事部門の視点 |
| 関与範囲 | 全社的な経営戦略 | 人事部門の業務領域 |
| 成果指標 | 売上・利益への貢献度 | 採用コスト・業務時間 |
| 時間軸 | 中長期的な視野 | 短期的な改善 |
戦略人事は経営目標の実現に向けて人材を戦略的に活用する取り組みであり、経営層と同じ視点で全社的な施策を展開します。一方、人事戦略は人事部門の業務改善に焦点を当て、短期的な成果を追求する傾向があるでしょう。
両者の連携による相乗効果
戦略人事と人事戦略を適切に連携させれば、組織全体の競争力が飛躍的に向上します。
戦略人事が経営目標達成に向けた大きな方向性を示し、人事戦略がその実現に必要な具体的な施策を担う関係性が理想的です。経営層が掲げる成長戦略に対し、戦略人事が必要な人材像を定義し、人事戦略が採用・育成の実務を効率的に遂行していきます。
両者が連携すれば、経営戦略の実現スピードが加速するでしょう。戦略人事による明確な方向性のもと、人事戦略が効率的な業務プロセスを構築し、必要な人材を適切なタイミングで確保できるようになります。
相乗効果を最大化するには、経営層・人事部門・現場の三者が密接にコミュニケーションを取り、共通の目標に向かって進む体制づくりが欠かせません。
戦略人事が難しいとされる3つの理由

戦略人事の重要性は広く認識されているものの、実践できている企業は限られています。経営層の理解不足や人事部門のリソース不足、組織全体の変革への抵抗という3つの要因が、戦略人事の実現を阻んでいるのが現状です。各要因の具体的な内容と、克服に向けた視点を確認していきましょう。
経営層の理解不足と人事の位置づけ
経営層が人事部門を単なる管理部門として捉えている企業では、戦略人事の実現は困難です。
多くの経営者は、人事部門を給与計算や労務管理を担う後方支援部門と認識しており、経営戦略の策定や意思決定の場に人事を参画させない傾向があります。人事部門が経営会議に出席する機会が少なく、重要な経営判断から除外されるケースも珍しくありません。
経営層の理解不足により生じる問題は、以下のとおりです。
- 人事施策への投資が後回しにされる
- 人材育成予算が削減対象になりやすい
- 人事部門の提案が軽視される
- 採用活動が場当たり的になる
人事をビジネスパートナーとして位置づけ、経営戦略の策定段階から積極的に関与させる姿勢が、経営層には求められます。
日常業務に追われるリソース不足
人事部門が給与計算や勤怠管理といった定型業務に追われ、戦略的な施策に取り組む時間が確保できない状況が続いています。
多くの企業では、人事部門の人員配置が最小限に抑えられており、日々発生する労務管理や社会保険手続きだけで業務時間が埋まってしまうでしょう。採用や育成といった重要な業務も、緊急性の高い事務作業の合間に対応せざるを得ない状況です。
人事部門のリソース不足は、戦略人事の実現を妨げる大きな障壁となります。経営戦略と連動した人材施策の立案や、データ分析に基づく人事制度の設計には、相応の時間と専門性が必要です。
リソース不足を解消するには、定型業務のシステム化やアウトソーシングの活用により、人事部門が戦略的な業務に集中できる環境を整備しなければなりません。
変革に対する組織の抵抗
戦略人事の導入は、従来の人事慣行や組織文化を大きく変える取り組みであり、現場からの抵抗に直面するケースが多々あります。
年功序列や終身雇用といった日本的雇用慣行に慣れた社員にとって、成果主義の導入や配置転換の増加は、不安や反発を生む要因となるでしょう。管理職層も、部下の評価方法の変更や、人材育成の責任が増すことに戸惑いを感じる傾向があります。
組織の抵抗を最小限に抑えるには、変革の必要性と目的を丁寧に説明し、社員の理解と納得を得るプロセスが欠かせません。段階的な導入により、組織が変化に適応する時間を確保し、成功事例を積み重ねながら浸透を図っていく戦略が有効です。

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戦略人事に必要な4つの機能と役割

戦略人事とは、経営目標を達成するために、人材マネジメントを戦略的に行うことです。戦略人事には、主に4つの機能または役割があります。
HRBP
1つ目は、HRBPです。HRBPとは『人事』と『ビジネスパートナー』を組み合わせた言葉です。ビジネスの成果を最大化するために、各事業部門と綿密に連携しながら、人的資源と組織づくりの観点からビジネスをマネジメントすることを意味します。HRBPの主な役割は以下の2点です。
- 各事業部門の人材や組織に関するリクエストに対応する
- まだ言語化されていない問題やニーズを引き出し、解決しながら事業を展開していく
HRBPが支援する対象は、主に2つあります。
- ビジネスリーダー
- 事業部門で働く従業員
まず、事業戦略の実現に向けて、各部門のビジネスリーダーと連携します。事業戦略に沿った人材戦略の考案や、人材戦略に基づく人材採用・育成計画の実行は、HRBPとビジネスリーダーが協力して検討すべき課題です。
それとは別に、HRBPは各部門で働く個々の従業員の良き理解者になる必要もあります。各事業部門の従業員の相談窓口になるなど、個々の従業員に対しても幅広いサポートが求められます。
OD&TD(組織開発&タレント開発)
2つ目は、OD&TDです。
OD(Organization Development)とは、企業理念の浸透や組織文化の醸成を通じて、組織をあるべき方向、あるいは将来的に目指したい方向へと導く組織開発を指します。
TD(Talent Development)とは、タレント開発と訳され、理想的な組織を構築するために必要な人材育成を行い、育成した人材に活躍してもらうことを指します。
ODとTDは、どちらか一方が欠けても成立しません。両者は表裏一体の関係にあると言えるでしょう。
CoE(センターオブエクセレンス)
CoE(Center of Excellence)とは、人事に関する専門領域に特化したコンサルティング機能を指します。主にビジネスパートナーをサポートし、社内の人的資源に関する各専門領域において、企画や設計機能の役割を担います。採用活動を例に挙げると、
- どのような人材を
- どのような採用方法で
- いつまでに採用するのか
といった具体的な採用計画を立てることが、CoEに課せられた役割です。CoEは、その他にもさまざまな制度設計や開発の役割を担っています。
例えば、
- 評価制度や報酬制度など、各種制度の構築
- 研修プログラムやトレーニングメニューの開発
- 人事システムの設計と開発
などが挙げられます。
関連記事:https://marugotoinc.jp/blog/recruitment-planning/
OPs(オペレーションズ)
OPs(Operations)は、人的資源に関する実務のエキスパートです。各事業部門を横断し、地域的な制約も排除することで、コスト最適化と効率化を実現するためにシェアードサービス化やアウトソーシング化を推進します。CoEが設計・構築した各種ソリューションを、実際に運用・管理するのがOPsの任務です。定型業務をアウトソーシングしている場合は、アウトソーシング先の管理もOPsが行います。
採用活動を例に挙げると、OPsは採用に関する詳細なプロセスや、採用された人材の入社までのフォロー・サポートなどを担当します。その他、従来の人事部が行っていた給与計算・支給・福利厚生、勤怠管理・労務、人事システムの運用、新卒採用の実務運営、駐在員管理などもOPsの業務範囲に含まれます。
戦略人事の立て方

戦略人事の実践には、6つの大事なステップがあります。それぞれのステップについて確認していきましょう。
1.経営ビジョンを理解する
戦略人事を実施するための最初のステップは、『経営ビジョンの理解』です。経営ビジョンを理解するには、経営方針を読み解き、企業が社会においてどのような使命を担っているのかを把握する必要があります。
2.人材ビジョンの策定
戦略人事を実施するための2つ目のステップは、『人材ビジョンの策定』です。人材ビジョンの策定とは、経営ビジョンが達成された際に『従業員がどのような状態であるべきか』を具体的に示すことです。
例えば、『食を通じて社会に貢献する』という経営ビジョンがある場合、そこで働く従業員の理想像を策定します。『食のプロフェッショナルとして日々研鑽を積み、食を創造する』『仕事と家庭を両立させ、従業員一人ひとりが生き生きと働いている』といった具合です。
3.中長期経営計画を理解する
戦略人事を実施するための3つ目のステップは、『中長期経営計画の理解』です。中長期経営計画を理解するために、計画書から向こう数年の『企業目標』を把握します。その上で、『ヒト』という人的資源に対するニーズを明確にします。
4.中長期人事計画の策定
戦略人事を実施するための4つ目のステップは、『中長期人事計画の策定』です。中長期人事計画の策定では、人材ビジョンを基盤とし、中長期経営計画で示された人的資源に対するニーズを具体的に計画に落とし込みます。
5.採用計画と人材育成計画の策定
戦略人事を実施するための5つ目のステップは、『採用計画と人材育成計画の策定』です。採用計画と人材育成計画の策定では、経営計画のニーズに基づいて、必要な人材の採用人数や採用時期などを計画します。
また、例えば2年後に新工場を建設する計画がある場合、2年以内に工場長候補を育成する計画を立てます。
6.組織人事戦略
戦略人事を実施するための6つ目のステップは、『組織人事戦略』です。組織人事戦略とは、経営方針に沿った組織開発を指します。人的資源が経営方針に沿ったアウトプットを出せるかどうかは、組織開発によって大きく左右されます。
組織開発では、マネジメントスタイルを通じて、目標達成に向けて粘り強く努力する『グリット』を構築します。戦略人事が机上の空論に終わらないためには、組織開発を行い、その後の状況を継続的にフォローアップすることが重要です。

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戦略人事に必要な要件

ここでは戦略人事に必要な要件について見ていきましょう。
1.人事のプロフェッショナル
戦略人事は、人事部門の責任者が担当します。その業務範囲は、経営層と経営課題や理念、経営目標など人材マネジメントの関係性について協議することや、現場のビジネスリーダーや従業員と現在直面している人事課題への対応を検討することなど、広範囲に及びます。
人事分野における幅広い専門知識と経験を有するプロフェッショナルであることが最低条件と言えるでしょう。
2.経営戦略、事業戦略の理解
人事部門の専門知識に加え、経営戦略や事業戦略への深い理解も大切です。
戦略人事が担う具体的な業務には、ビジネスリーダーの良き理解者として事業戦略に沿った人材戦略の立案、人材戦略に基づく採用や人材育成の計画・実行、事業部の従業員の相談窓口などが挙げられます。
戦略人事が各事業部の戦略達成や目標実現、成長を人材面から支援するためには、各事業部の取り組み、事業の在り方、企業全体の理念、経営計画などに関する深い理解を持つことが大事です。
3.成果力
成果力とは、平易な言葉で言えば『仕事ができる能力』のことです。これは、人事部門の責任者のみならず、一般的なビジネスパーソンが持つべき能力の一つです。しかし、一般的なビジネスパーソンに求められるレベルよりも高い水準が要求されることは容易に想像できるでしょう。成果力は、主に以下の4つの分野で構成されます。
- 課題把握能力/問題解決能力
- コミュニケーション能力
- リーダーシップ
- グリット(やり抜く力)
これら全てを高いレベルで維持するのは困難かもしれません。しかし、可能な限り高いレベルで各能力を維持できれば、他の能力にも良い影響を与え、相乗効果によってより高い成果力を発揮できるでしょう。
戦略人事導入で得られる5つのメリット

戦略人事を導入すれば、経営戦略の実行スピードが加速し、変化の激しい市場環境への適応力が高まります。優秀な人材の獲得と定着、タレントマネジメントの高度化や経営層の意思決定支援といった具体的な成果が期待できるでしょう。
経営戦略の実行スピード向上
戦略人事により、経営戦略で掲げた目標を実現するまでの時間が大幅に短縮されます。
従来の人事では、経営層が新たな事業戦略を決定してから、必要な人材を確保するまでに数ヶ月から1年以上かかるケースが珍しくありませんでした。戦略人事では、経営戦略の策定段階から人事部門が参画し、必要な人材像や確保時期を事前に計画します。
経営戦略と人事施策が連動すれば、市場機会を逃さず、競合他社に先んじて行動できるようになるでしょう。新規事業の立ち上げや海外展開といった重要な経営判断を下した際、即座に必要な人材を配置し、プロジェクトを始動させられます。
VUCA時代への適応力強化
変動性・不確実性・複雑性・曖昧性が高まるVUCA時代において、戦略人事は組織の適応力を飛躍的に向上させます。
市場環境の急激な変化に対応するには、柔軟な組織体制と、多様なスキルを持つ人材の確保が不可欠です。戦略人事では、将来起こりうる環境変化を予測し、必要となる人材を事前に育成したり、外部から獲得したりする準備を進めていきます。
VUCA時代に求められる組織の特徴は、以下のとおりです。
- 迅速な意思決定ができる体制
- 部門を超えた柔軟な人材配置
- 変化を恐れない組織文化
- 多様な専門性を持つ人材の確保
- 継続的な学習と成長の仕組み
戦略人事により、環境変化を機会として捉え、積極的に挑戦できる組織へと進化していけるでしょう。
優秀人材の獲得と定着率向上
戦略人事は、企業が求める優秀な人材の採用成功率を高め、入社後の定着率も大きく改善します。
経営戦略に基づいて明確な人材要件を定義すれば、採用活動の精度が向上し、ミスマッチによる早期離職を防げるでしょう。入社時点から、社員のキャリアパスや成長機会が明示されているため、長期的な視点で企業に貢献しようとする意欲が高まります。
優秀な人材は、自身の成長機会や、企業のビジョンへの共感を重視して就職先を選ぶ傾向があります。戦略人事を実践している企業は、明確な成長戦略と人材育成方針を持っており、優秀層にとって魅力的な就職先となるのです。
定着率の向上は、採用コストの削減だけでなく、組織に蓄積されるノウハウや、チームの一体感の醸成にもつながります。
タレントマネジメントの高度化
戦略人事により、社員一人ひとりの能力を最大限に引き出すタレントマネジメントが実現します。
従来の人事管理では、社員のスキルや経験が十分に可視化されておらず、適材適所の配置が困難でした。戦略人事では、社員の保有スキル・経験・適性・キャリア志向を体系的に管理し、最適な人材配置を実現していきます。
タレントマネジメントの高度化により、次世代リーダーの計画的な育成が可能となるでしょう。将来の経営幹部候補を早期に発見し、必要な経験を積ませる配置転換や、リーダーシップ研修への参加機会を提供できます。
社員の能力を正確に把握し、適切な役割を与えられれば、個人のパフォーマンスと組織全体の生産性が同時に向上していくのです。
経営層の意思決定サポート
戦略人事は、人材データに基づく客観的な情報を提供し、経営層の意思決定を強力に支援します。
経営層が新規事業への参入や組織再編を検討する際、人事部門が人材面からの実現可能性や課題を分析し、具体的な提言を行えるようになるでしょう。必要な人材の確保にかかる期間やコスト、既存人材の再配置による影響などを、データに基づいて示せます。
経営判断における人材面のリスクを事前に把握できれば、失敗の可能性を大きく減らせます。戦略人事により、人事部門は経営層の信頼できるビジネスパートナーとして機能し、企業の成長を人材面から確実に支えていけるのです。

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戦略人事の実践における3つのポイント

戦略人事を実際に行うために、先ほど説明した手順を具体的な計画に落とし込む際に必要なポイントを3つ選び、詳しく説明します。
1.人事管理の成果を定める
戦略人事の実践において、まず大切なのは人事管理における成果目標の明確化です。これは、経営戦略と人事管理、そして経営成果を結びつける上で不可欠な要素となります。しかし、多くの企業が成果目標の設定に苦慮しているのが現状です。
成果指標は多岐にわたりますが、ここでは3つの指標に絞って解説します。
成果指標1:戦略遂行に必要な人材の確保と活動の促進
経営戦略に基づき、必要な職務、役割、能力を定義し、適切な人材を採用・育成・配置します。単に人数を揃えるだけでなく、従業員が期待される活動を実際に行うことが大切です。
成果指標2:従業員のモチベーション向上
従業員満足度やエンゲージメントなど、従業員のモチベーションを向上させることで、生産性やイノベーションの向上を目指します。従業員の「気持ち」を重要な成果指標として捉え、改善に努めます。
成果指標3:会社、各部門における人事面での重要な問題の解決
経営戦略遂行上の課題を特定し、解決を図ります。経営層や各部門と連携し、人事データ分析や対話を通じて課題を明確化し、解決に向けた取り組みを行います。
企業や各部門における人事課題について、現状の共通認識の程度を改めて把握し、共通認識を構築することも、戦略人事の実践において有効です。
2.人事管理の全体的な調和を意識する
2つ目のポイントは、人事管理の全体的な調和を意識することです。
各人事管理の整合性が高いほど、目標達成は容易になります。しかし、変化を求める場合、既存の整合性が阻害要因となることもあります。
そのため、人事管理全体の関連性と整合性を意識することが大切です。これは『戦略的人的資源管理論』では水平適合と表現されます。
例えば、近年、キャリア自律支援としてキャリア研修を導入する企業が増えています。これは、従業員のエンゲージメント向上や成長加速を期待するものです。
しかし、キャリア研修のみでは、配置転換が企業主導の場合、自律心が低下したり、転職に繋がる可能性があります。
『企業主導の人材配置』を重視してきた企業では、自律心を育む環境が整っていない可能性があります。
そのような企業がキャリア研修を導入しても、効果は限定的です。これは、旧来の人事管理と新施策の整合性が低いことが原因です。
新たな人事施策導入時は、既存の人事管理との整合性を考慮することがポイントとなります。
3.他組織との連携を視野に入れ、人事部の役割を明確にする
最後に、戦略人事の文脈でよく取り上げられる人事部の役割について確認します。
戦略人事の実践には、経営陣や現場部門長と協力し、企業が抱える課題や対策を議論しながら、人事戦略を策定・実行する役割が求められます。この役割を人事部が担う場合、その一部を担う人をHRBP(Human Resource Business Partner)と呼ぶことがあります。
ただし、必ずしもHRBPという組織が必要なわけではありません。HRBPという名称を使わずに、同様の役割を担っている企業も存在します。
- 『部門人事』という名称で同様の役割を担う
- 『人事課 配置班』として、配置などの特定の人事管理に特化し、各部門長と連携する
- 従業員数が少ない企業では、人事部長がHRBPの役割を兼務する
- 現場に部門内教育機能を持つ組織がある場合は、人事が連携して戦略人事の役割を担う
このように、戦略人事の実践においては、経営陣や現場部門長と協力し、企業の課題や対策を議論しながら人事戦略を策定するなど、さまざまな形態が考えられます。
留意すべきは、各組織がどのような役割を担っているのかを明確にし、強化すべき役割を特定することです。人事部だけで全てを担うのではなく、さまざまな組織と連携し、総合的に戦略人事の役割を遂行することが不可欠です。
戦略人事の具体的な施策事例

戦略人事を実践するには、採用・育成・評価・働き方という4つの領域で具体的な施策を展開する必要があります。ダイレクトリクルーティングによる戦略的な人材獲得、リスキリングプログラムによる既存社員の能力開発、OKRを活用した目標管理、柔軟な勤務制度の整備といった取り組みが効果を発揮するでしょう。
採用戦略:ダイレクトリクルーティングの活用
ダイレクトリクルーティングは、企業が求める人材に直接アプローチする攻めの採用手法です。
従来の求人広告や人材紹介会社経由の採用では、応募を待つ受動的な姿勢となり、経営戦略に必要な専門人材の確保が困難でした。ダイレクトリクルーティングでは、LinkedInやビズリーチといったプラットフォームを活用し、企業側から候補者にスカウトメッセージを送信します。
経営戦略の実現に必要なスキルや経験を持つ人材をピンポイントで探し出し、直接対話できる点が最大の強みでしょう。新規事業の立ち上げに必要な専門性の高いエンジニアや、海外展開を担うグローバル人材など、市場に出回りにくい希少人材へのアプローチが可能となります。
育成戦略:リスキリングプログラムの設計
リスキリングプログラムは、既存社員に新たなスキルを習得させ、経営戦略の変化に対応できる人材へと育成する施策です。
デジタル化やAI技術の進展により、従来の業務スキルだけでは対応できない場面が増えています。リスキリングでは、社員が現在の職務に必要なスキルに加え、将来的に求められる能力を計画的に身につけられる環境を整備していきます。
効果的なリスキリングプログラムには、社員のスキルレベルに応じた段階的なカリキュラム設計が必要です。基礎的なデジタルリテラシー向上から、データ分析やプログラミングといった専門スキルの習得まで、幅広い学習機会を提供しましょう。
外部の教育機関やオンライン学習プラットフォームとの連携により、質の高い学習コンテンツを効率的に提供できます。
評価制度:OKRによる目標管理の導入
OKRは、組織目標と個人目標を連動させ、全社員が同じ方向を向いて業務に取り組める評価制度です。
Objectives(目標)とKey Results(主要な成果)を設定し、達成度を定期的に確認していく手法となります。GoogleやFacebookといったグローバル企業が採用し、高い成果を上げている評価手法として注目を集めています。
OKRの特徴は、以下のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 設定頻度 | 四半期ごとに見直し |
| 目標の公開性 | 全社員が閲覧可能 |
| 達成目標 | 60〜70%の達成を目指す |
| 評価との連動 | 報酬と直接連動させない |
経営戦略の実現に向けた具体的な行動を引き出せる点が、OKR最大のメリットです。全社目標から部門目標、個人目標へと段階的に落とし込まれ、社員全員が経営戦略の実現に貢献している実感を持てるようになるでしょう。
働き方改革:柔軟な勤務制度の整備
柔軟な勤務制度の整備は、多様な人材が能力を最大限発揮できる環境づくりに直結します。
リモートワークやフレックスタイム制度の導入により、社員のワークライフバランスが改善され、生産性の向上が期待できるでしょう。育児や介護といった個人の事情に配慮した働き方を認めれば、優秀な人材の離職を防ぎ、長期的なキャリア形成を支援できます。
柔軟な勤務制度は、採用市場における企業の魅力度を高める効果もあります。働き方の自由度を重視する若手人材や、専門性の高いプロフェッショナル人材にとって、柔軟な勤務制度は就職先を選ぶ重要な判断基準となっているのです。
制度を形骸化させないためには、評価制度の見直しやコミュニケーションツールの整備といった、制度を支える仕組みづくりが同時に必要となります。

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戦略人事を推進するためのツールとテクノロジー

戦略人事の実現には、適切なツールとテクノロジーの活用が不可欠です。
タレントマネジメントシステムによる人材情報の一元管理、HRアナリティクスを用いたデータ分析、外部コンサルタントの専門知識の活用という3つのアプローチにより、戦略人事の効果を最大化できるでしょう。
タレントマネジメントシステム(TMS)の活用
タレントマネジメントシステムは、社員のスキルや経験、評価履歴を一元管理し、戦略的な人材配置を実現するツールです。
従来の人事管理では、社員情報が部門ごとに分散しており、全社的な人材の可視化が困難でした。TMSを導入すれば、社員の保有資格・業務経験・研修履歴・評価結果といった情報を統合的に管理し、必要な人材を迅速に検索できるようになります。
経営戦略の変更に伴い、新たなプロジェクトチームを編成する際、TMSから最適な人材を抽出し、スピーディーな配置が可能となるでしょう。次世代リーダー候補の発掘や、後継者育成計画の策定にも活用でき、計画的な人材育成を推進できます。
システム選定では、自社の組織規模や業務フローに適合するか、既存システムとの連携が可能かといった点を慎重に検討しなければなりません。
HRアナリティクスによるデータ分析
HRアナリティクスは、人事データを統計的に分析し、客観的な根拠に基づいた意思決定を支援する手法です。
勘や経験に頼った人事施策から脱却し、データドリブンな人材マネジメントへ転換できる点が大きな特徴となります。採用活動の効果測定、離職率の予測、社員のエンゲージメント分析といった多様な用途で活用されています。
HRアナリティクスで分析できる主な項目は、以下のとおりです。
- 採用チャネル別の応募者数と採用率
- 部門別・職種別の離職率推移
- 研修プログラムの受講率と業績への影響
- 社員満足度調査の結果と生産性の相関
- 人件費の推移と売上高の関係性
分析結果を経営層に提示すれば、人事施策への投資判断がスムーズに進むでしょう。データに基づく提案は説得力が高く、経営層の理解と承認を得やすくなります。
外部コンサルタントの効果的な活用法
外部コンサルタントは、戦略人事の導入や推進において、専門的な知識と客観的な視点を提供してくれる重要なパートナーです。
社内だけでは気づきにくい組織課題や、人事制度の問題点を第三者の立場から指摘してもらえます。他社の成功事例や最新の人事トレンドに関する情報も得られ、自社に適した施策の選択肢が広がるでしょう。
コンサルタントの活用では、丸投げせず、社内の人事担当者が主体的に関わる姿勢が重要です。コンサルタントから提案された施策を、自社の組織文化や事業特性に合わせてカスタマイズし、実行可能な形に落とし込んでいきます。
まとめ

変化の激しいニューノーマル時代。企業の未来を左右する経営戦略には、柔軟な対応が求められます。そこで注目したいのが、戦略人事です。
これからの人事部門は、経営のパートナーとして、より重要な役割を担うことになるでしょう。経営層と手を取り合い、企業の未来を共に創り上げていくことが求められます。
そのためには、事業への深い理解と、社内外の関係構築が大事です。人事部門が誰よりも企業を理解し、戦略を支える存在となることが、企業の成長を力強く後押しするでしょう。

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