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裁量労働制では「残業代がまったく不要になる」と誤解されがちですが、実際にはみなし労働時間を基準にした割増賃金の支払いが必要です。
そのため、運用を誤ると未払残業のリスクが発生し、企業の社会的信用に傷をつける事態に発展してしまいます。
とくに中小企業では、導入手続きや労働時間管理が不十分になりやすく、トラブルの原因になることも多いので注意が必要です。
この記事では、裁量労働制の基礎知識から、適切なルール整備・運用の注意点まで幅広く解説します。

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目次
裁量労働制とは

裁量労働制とは、実際の労働時間に関係なく、企業と労働者があらかじめ定めた「みなし労働時間」で賃金を支払う制度です。
導入には法律で定められた対象業務・手続きが必要で、誰にでも適用できるわけではありません。
そのため、裁量労働制を問題なく運用するためには、制度のルールを理解しなければなりません。
ここでは、裁量労働制を運用するうえで知っておきたい「適用対象となる職種」や「専門業務型・企画業務型の違い」について解説します。
適用対象となる職種
裁量労働制の適用対象は、厚生労働省が定めた専門的・企画的な業務に限られており、すべての職種に使える制度ではありません。
そのため、中小企業が導入を検討する際は、自社の業務が対象業務に該当するかを慎重に確認することが必要です。
専門的な業務の場合は20種類、企画的な業務の場合は労働基準法で定められた以下の要素を満たす業務など、業務によって対象となる枠決めが異なるので注意が必要です。
- 対象事業場
- 対象業務
- 対象労働者の範囲
専門業務型と企画業務型の違い
裁量労働制には「専門業務型」と「企画業務型」の2種類があり、適用される業務や導入手続きが異なります。
違いをわかりやすくまとめた表は以下のとおりです。
専門業務型裁量労働制 | 企画業務型裁量労働制 | |
対象業務 | 厚労省が定める20業務 | 事業運営に関する企画・立案・調査・分析業務 |
職種例 | 弁護士、税理士、システムエンジニア、記者、研究者、建築士など | 経営企画、商品企画、マーケティング企画、戦略立案部門など |
導入手続き | 労使協定を締結し、所轄労基署に協定届を提出 | 労使委員会を設置し5分の4以上の多数決による決議の後に、労基署へ届出 |
適用難易度 | 対象職種が明確で導入手続きもシンプル | 業務範囲が広く解釈に注意、委員会設置や同意管理も必要 |
専門業務型と企画業務型で運用する難易度が大きく変わるため、自社の業務がどちらに当てはまるか事前に確認することが大切です。
「残業代が出ない」は誤解?裁量労働制と残業代の関係

裁量労働制では、実際の労働時間にかかわらず「みなし労働時間」が勤務時間とされるため、原則として残業代は発生しません。
ただし、深夜勤務や法定休日労働、みなし時間を超える設定など特定条件では残業代が必要となるケースがあるため、運用には注意が必要です。
ここでは、裁量労働制で残業代が発生する代表的なケースを2つ紹介します。
また、具体例をもとにした計算方法も解説しているため、裁量労働制の導入を検討している方はぜひ参考にしてください。
みなし労働時間が法定労働時間を超える場合
裁量労働制では、みなし労働時間を1日8時間を超えて設定した場合、その超過分には時間外割増賃金(25%以上)の支払いが必要です。
法定労働時間は1日8時間・週40時間が原則であるため、法定労働時間以上の運用になっている企業は注意しましょう。
また、形式的にみなし時間を短く設定しても、実際の働き方と乖離していればトラブルの原因となるため、実務実態と乖離しないように運用することが大切です。
時間外割増賃金の計算方法
時間外割増賃金は、「1時間あたりの賃金 × 1.25」で計算します。
たとえば時給2,000円なら、残業1時間あたりの割増は2,500円です。
また、時間外割増賃金は法定労働時間を超えた分が対象となるため、正確に労働時間を把握することが不可欠です。
労務管理に必要なバックオフィス業務にあまり人員を割けない場合は、給与計算システムや勤怠管理ツールを活用し、業務負担を軽減することをおすすめします。
深夜・休日労働が発生した場合
裁量労働制を導入していても、22時〜翌5時の深夜労働には25%以上、法定休日出勤には35%以上の割増賃金の支払いが法律で義務づけられています。
そのため、深夜労働や休日労働が発生した場合には、裁量労働制であっても割増賃金が必要です。
休日労働の範囲が曖昧なまま運用すると、未払い残業代の請求や労基署の調査対象となる恐れがあるので、どの時間帯・休日が割増賃金の対象となるかを明確にしておくことが重要です。
深夜手当・休日手当の計算方法
時間外割増賃金は、通常の時給に法定の割増率を上乗せして計算します。
たとえば時給2,000円の場合、深夜労働(22時〜5時)は「2,000×1.25=2,500円」、法定休日労働は「2,000×1.35=2,700円」となります。
深夜手当と休日手当で適用される割増率が異なるため、状況に応じて正しい計算式を用いることが重要です。
【残業以外も要チェック】裁量労働制を運用する注意点とは

裁量労働制は通常の給与体系と大きく異なる仕組みの働き方であるため、残業代以外にも注意しなければならないポイントが複数あります。
ここでは、裁量労働制を問題なく運用する上で意識したい注意点を3つ紹介します。
注意点を把握することで裁量労働制をより深く把握できるため、裁量労働制の導入を明確にイメージしたい人はぜひチェックしてみてはいかがでしょうか。
労使協定の締結・届け出の義務を守る
裁量労働制は、専門業務型・企画業務型ともに、労使合意に基づく手続きと、所轄労働基準監督署への届出が法令で義務づけられています。
協定には、対象業務、みなし労働時間、健康・福祉確保措置の内容などを明記し、就業規則への反映も必要です。
届出内容や適用範囲、更新期限の管理を怠ると、制度そのものが「不適用」と判断され、過去に遡って残業代請求や是正勧告の対象となる事態に陥ってしまいます。
届け出の内容が「不適用」と判断されないためにも、提出前に専門家にチェックしてもらうだけでなく、定期的に業務実態を見直すとよいでしょう。
労働時間管理を徹底する
裁量労働制は出退勤時間を労働者に委ねるため、長時間労働が見過ごされやすい傾向があります。
長時間労働は健康障害や労務トラブルに発展しやすいため、それらのリスクを防止する意味でも労働時間を正確に把握・管理することが重要です。
もし、労働時間の管理や把握をなるべく効率よく対応したい場合は、勤怠管理システムの導入を検討するとよいでしょう。
勤怠管理システムを導入すれば、出退勤時刻を自動記録できるため、深夜労働や休日勤務があっても見逃すことなく対処できます。
他の勤務制度との違いを理解する
裁量労働制を正しく運用するには、他の労働時間制度との違いを理解することが不可欠です。
変形労働時間制やフレックスタイム制など、他にも多様な働き方ができる制度があるため、それらの制度と運用方法が混ざらないように注意しましょう。
以下の表では、変形労働時間制、フレックスタイム制、事業場外みなし労働時間制との違いをわかりやすくまとめているので、違いを理解する際に役立ててみてください。
制度名 | 労働時間の決定者 | 管理の必要性 | 主な特徴 |
裁量労働制 | 労働者 | 実労働時間の把握が必要 | 専門・企画業務に限定されている |
変形労働時間制 | 会社がスケジュール設定 | 労働時間の管理が必要 | 一定期間内で労働時間を調整し、法定労働時間を平均で満たせば問題なし |
フレックスタイム制 | 労働者 | 総労働時間の管理が必要 | コアタイム以外は自由に働ける制度 |
事業場外みなし労働制 | 実質的に労働者 | 実態把握が困難 | 外回りなどで労働時間が把握できない業務に適用 |

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中小企業やベンチャーでのよくある裁量労働制の勘違いトラブルとは

裁量労働制の運用は難易度が高いため、会社の基盤が成熟していない中小企業やベンチャーでは、トラブルが起きてしまうことも珍しくありません。
ここでは、中小企業やベンチャーでよく見られる、裁量労働制に関する勘違いから生じるトラブルを3つ紹介します。
トラブルの具体例を事前に把握して、適切な裁量労働制の運用に役立ててみてはいかがでしょうか。
対象業務でないのに制度を適用してしまう
ベンチャー企業では「裁量労働制=残業代が不要」と誤解し、対象業務の確認を怠ったまま制度を適用してしまうケースも少なくありません。
しかし、専門業務型・企画業務型ともに厚労省が定めた業務に限定されているため、対象範囲を超えて適用すると、後に違法と判断される可能性が高くなります。
違法と見なされると、残業代の遡及請求や是正勧告を受けるリスクがあるため、制度導入前の確認は入念に実施しましょう。
みなし労働時間と実労働時間の乖離が大きい
中小企業やベンチャーでは、勤怠管理が不十分なまま裁量労働制を導入し、みなし労働時間と実労働時間に大きな乖離が生じるケースがあります。
とくに時間労働が常態化しているにもかかわらず実態を把握できていないと、従業員のモチベーション低下や離職率の上昇につながるため注意が必要です。
適切に制度を運用することはもちろん、健全な職場環境を維持しているかを確認するためにも、導入後も定期的に勤務状況を把握することが重要です。
労使協定・同意・届出といった手続きが抜けている
裁量労働制では、労使協定の締結・労働者の同意・労基署への届出が法的に義務づけられていますが、手続きが複雑であることも少なくありません。
そのため、専門知識のある人員を確保しづらい中小企業やベンチャーでは、「手続きが煩雑」という理由で必要な形式を省略してしまい、後に監督署の指導や訴訟トラブルへ発展するケースも多く見られます。
また、社内説明が不十分だと、社員が制度内容を正しく理解できず、運用段階で疑問や不満が生じるリスクも高まるため注意が必要です。
まとめ

この記事では、裁量労働制の基礎知識から、適切なルール整備・運用の注意点まで解説しました。
裁量労働制を活用すれば、より柔軟な働き方が可能な反面、運用する際には注意点が多くあるため、導入前に念入りな準備が必要です。
運用によるリスクを背負わないためにも、システム導入やプロによる支援で、効率よく準備を進めることが大切です。
もし、リソース・ノウハウ不足で困っている経営者の方がいましたら、中小企業やベンチャー企業向けのサポートが充実している「まるごと管理部」労務プランをチェックしてみてはいかがでしょうか。

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